過去数年において、Blawanほど話題をシーンにもたらしたプロデューサーはいないに等しい。Hessle Audio、R&S、Clone Basement Series、Hinge Fingerからのリリースがそれを物語っている。しかし、彼の特徴は何といってもそのパーカションにある。BlawanことJamie Robertsは元ドラマーであり、複雑にリズムが組まれた楽曲群からそのバックグラウンドが理解できるだろう。簡単に言ってしまえば、彼の音楽の捉え方は他人とはかなり違うのだ。

その特徴は様々な方面に影響を及ぼしている。まずHessle AudioのRobertsの初期作品群によって入り込んだUKベースの世界では、R&Bのヴォーカルをサンプリングした“Getting Me Down”、そして意外にも歌詞が口ずさまれている“Why They Hide Their Bodies Under My Garage”という本人にとっての2大ヒットとも呼べる作品をリリースしており、またスタジオでの作業をハードウェア主体に切り替えてからは、The Analogue CopesやPariahとのコラボレーションを頻繁に行なっており、特にPariahとはKareｎnとしての活動をスタートさせている。そして最近は作品群が次々とErol Alkan、Simian Mobile Disco、TigaなどのミックスCDに収録されている。

言うまでもなく、バーンズリー出身のこのプロデューサーは現在多忙を極めている状態にあるが、来月RAが主催するThe Warehouse Projectの出演を前に、彼を捕まえて話を聞くことにした。

まずはPariahとのコラボレーションについて伺いたいと思います。Karennのライブはどのようなセッティングなのでしょうか？

コンピューターは使ってない。俺たちが制作に使うハードウェアだけだね。スタジオを外に持ちだした感じだよ。テクノのライブセットとしての伝統に則っていると言えるね。別に俺たちはパイオニアではないし、自分たちが知っている人たちのやり方でやっているんだ。The Analogue Copsが色々教えてくれたんだ。プレイの仕方というよりはライブセットをどう考えればいいかってこと。シンプルにしようとしているんだけど、そこに苦労しているね。ダンスさせるために組んでいるんだ。

シンプルにするのが難しいですか？

最初のライブでは全部鳴らしちゃったのさ。頭からドラムやシンセが全部鳴るっていう初歩的なミスをしたんだ。滅茶苦茶だったよ。だから今はそれをどうするか学んでいるところさ。最初のライブから学んだ部分を見直しているんだ。

今のセッティングはコミュニケーションが取りやすいですか？

The Analogue Copsはライブ中に手で色々サインを出している。だから奴らは話をしないで状況が把握できている。でも俺たちはまだそのレベルじゃない。まだかなりラフな感じなんだ。即興性もしっかりと残しておきたいし。勿論、セットはきちんと組んではあるけれど、その範囲内で自由に出来るようにしているんだ。

「ハードウェアが自分の可能性を限定するのは、
良いことだと思っている。」

最初はラップトップで、それから完全なハードウェアのセッティングになったんですよね？　その理由、その魅力とは何でしょう？

コンピューターで打ち込んでいく作業が嫌になったんだ。コンピューターでの作業の限界に達しつつあったというかね。別に偉そうに言う訳じゃないけど、Abletonは何でもできる位理解していた。でもそこが気に入らなかった。

ハードウェアは理解できていると思いますか？

ああ。全体的な意味でダンスミュージックを理解しつつあるね。だからダンスミュージックという環境で一番力を発揮する機材に自分を制限している。Karennで使っている機材はライブや即興用だから、俺たちのトラック制作やライブセットに大きな影響を与えていると思う。ハードウェアが自分の可能性を限定するのは、良いことだと思っている。

Abletonでは「やれることがありすぎて、何をしたら良いのかわからない」という状態になる時がありますからね。

Abletonでは沢山のことが出来る。素晴らしいよ。俺は別にハードウェア信奉者じゃないよ。今は両方使っている状態だし。

あなたはアナログオンリーのリリース、そしてハードウェアの使用という意味で、純粋主義者のように思えますが、先へ進むためにあえてその姿勢を取っているようにも思えます。

ハードウェアで制作をしようと決めた時、俺は自分の作品がその方向転換に足を引っ張られないようにしようと思ったんだ。ハードウェアで作る作品はコンピューターで作った作品よりも良くなければならないってね。

どう「良く」なっていますか？

まぁ殆どの人は多分良くなったとは思わないだろうね。この後にリリースされる予定の作品はかなり以前とは違うから特にそう思うだろうな。でも、たとえ冒険的な部分が少し減ったとしても、俺の音楽には違いないし、俺が作ったこと、俺が今感じていることだということに変わりはないんだ。

どうしてそのような変化が起きたのでしょう？　DJとしてクラブでプレイする機会が増えたことが影響しているのでしょうか？

それはあるね。アナログの機材で作った作品はクラブでもっと良く聴こえるんだ。もっと太い音というかね。それが俺のDJプレイにも影響するんだ。ローファイなサウンドをプレイする感じになるから、The Analogue Copsのトラックはよくかける。綺麗なサウンドである必要はないんだ。だってクラブでプレイすれば…。

彼らの作品はそこが面白いですよね。彼らの作品をMP3で聴いてもちゃんと聴こえない。でもライブを聴けば、すぐにその意図が伝わります。

フルサウンドってところさ。俺は「こんな音聴いたことないぞ」っていう視点はあまり気にしていないんだ。実際そこまで古い機材を使っているわけじゃないし。せいぜい4、5年前のものさ。俺は所謂Rolandサウンドを欲しているわけじゃない。そうじゃなくて、ハードウェアを使うことが俺にとって全く違う制作方法だってことが大事なんだ。

アーティストが「自由を得るために限界があるハードウェアを使う必要があった」と話すのを良く聞きます。

その通りだよ。変に聞こえるだろうけど、本当なんだ。一番大きな問題のひとつは、多くの人が証言しているように、コンピューターではやれることが多過ぎてしまうということだ。あとはコンピューターだと、コンピューターでの制作が上手にできるだけになってしまうというか。スケジュールがタイトな場合は特にだけど、素早い制作が可能だから、抑制された、より管理された人間になってしまいがちだ。でも俺はそういうタイプじゃない。俺はとっ散らかっている人間なんだよ。トラックのパートだけを制作したり、制作に何ヶ月もかけたりする。実際、俺は新曲をここ4ヶ月は作ってないし、制作したいとも思ってない。

Hessle Audioでの初期作品を聴いた人はあなたをダブステップのアーティストとして捉えていたと思いますが、あなたはリリースをする度にそこからどんどん離れていますよね。

（ダブステップ的な）作品からはいつも大きな影響を受けているし、別にHessle Audioでリリースした作品から離れる必要性を感じているわけでもないよ。Hessle Audioからリリースした作品には満足しているし、自分の作品は良い作品だと思った。ただ、（Hessle Audioからのリリースは）かなり前に制作した作品で、その中の1枚はリリースする2年前に制作した作品だったし、自分がやりたい音楽という意味では当時から既に違っていた。俺は10代の頃からずっとテクノに大きな影響を受けていて、それが今の俺のサウンドに影響を与えていると思う。自分が満足するリリースをしていくというのは段階的なプロセスさ。リリースごとに俺がやりたいことに近づいているんだ。

“Why They Hide Their Bodies Under My Garage”について伺いたかったのですが、何故Hinge Fingerからリリースすることになったのですか？

正直言って自分でもよく分からないんだ。Joy（Orbison）は俺の友人だし、Hessle Audioのリリースより前から彼とは一緒にやろうって話をしていた。で、俺がこのトラックをJoyに送ったら、奴が「Hinge Fingerからリリースしよう」って言ってきた。だから俺はEP1枚分のトラックを用意して、ひとつにまとめ上げたって話さ。奴らと一緒に仕事をしたのは楽しかったよ。ただ、俺は別にヴォーカル物を作ろうとしていたわけじゃない。ヴォーカル物ではあるけれど、意識的に作ったわけじゃないね…。

でもあなたは良くも悪くもヴォーカル物で知られていますね。

そうなんだよ。嬉しい話さ。真面目だから良いとは限らないと俺は思っている。Hinge Fingerからのリリースは、ちょっとふざけた感じがありつつ耳障りな作品にすることで、曲の中で反発し合うような感じにしたかった。ふざけたヴォーカルを入れつつ、サウンド全体は輪郭のはっきりしないダークな感じにしてね。だから変なヴァイブが生まれて、不穏な雰囲気のトラックになった。

BoddikaがDimensionsでこのトラックをプレイして、観客が歌っている映像を見ましたよ。

凄いよね。プレイするとみんな歌うんだ。最高だと思うけれど、微妙に感じる部分もある。決して良い歌詞とは言えないしさ。

最近はDJを数多くこなしていますよね。制作に影響はありましたか？

だと思うよ。きちんとしたサウンドシステムがあるクラブで初めてプレイした時に、俺の作品のミックスダウンの酷さに驚いた。あれが一番大きい発見だったね。だからマスタリング前のトラックでもちゃんと自信を持ってプレイできるようにまずは自分の耳を鍛えた。それと他のDJのテクニックから学べたことも大きいね。以前の俺はスピーディーでかなりアグレッシブにミックスしていたからさ。俺が生まれ育った環境はあまりDJが多くなかったから、最近になって色々学んだんだ。

誰から影響を受けましたか？

特にいなかったな。俺はバーンズリー出身なんだけど、あそこでDJ的な活動をしていたり、その手の音楽を聴いたりしている奴らとは特別仲良くなかったんだ。俺も実際そこまでダンスミュージックを聴いていたわけじゃなかったしね。好きだったけどバンドでドラムを叩いていたし、メインに聴いているというわけではなかった。

少し話を戻しますが、今やっている方向にどのように方向転換したのか教えてください。

より奇妙な音楽を求めているってことかな。あとテクノってのは癖みたいなもんだと思ったよ。1曲作ったら止まらないんだ。トラックが4/4のリズムじゃなくて、他のトラックに合わないようなものだと変に感じてしまう。俺はパートごとに作っていくから、ダンスフロア向きの4/4のリズムのサイクルから抜け出すのが結構大変なんだ。ただ、来年はもっと大きなプロジェクトをやってみたいね。あと、まだかなり先になると思うけど、またHessle Audioからリリースしたいね。そうすればまた「よし、俺は好きなようにやれるぞ」って思えるだろうからね。かなり実験的なことができると思う。

あなたは先ほど自分がどこに向かうか決めていないようなニュアンスで話していました。

いや、実際はかなり良いアイディアが頭にあるんだ。確かに自分を制限したくないし、この先何が起こるかについては言いたくない。でも俺よりもキャリアが長くて、視野の広い人たちと面白いコラボレーションをやる予定さ。自分自身を見つめ直すきっかけを与えてくれて、自分がDJとしてどこに行きたいかを教えてくれたような人たちとね。

昨年人気が爆発したことでストレスを感じて、別の方向へ進みたいと思ったのではないですか？

そうだね。かなり急速にこの世界に飛び込んだなと感じたのは確かさ。今まで経験したことがない感じだった。去年、制作とリリースで本当に忙しい時期があって、凄くピリピリしていたし、ストレスを感じていた。でも彼らに会って色々考え方が変わったんだ。今は作品をリリースして、もう少し落ち着いた感じで活動したいね。基本的なことだけをやりたいというか。

2010年のインタビューでは、リリースのスケジュールがかなりタイトだと言っていましたが、結果的に2011年は毎月リリースしましたね。

ああ。大半は2010年に制作したものだから、2011年の2月の段階でもう今年どうなるかは決まっていたんだ。2010年はあまりギグも入ってなかったし、タイミングが良かったね。沢山作っておいて、今度はそれがリリースされて沢山のギグをこなすことになったから、制作とギグを同時にこなさなければならない状況にはならなかったから。でも今は少し状況が違う。制作する時間がないけれど、制作しなきゃならない状況さ。バランスを取らなきゃならない。でもTony（Surgeon）なんか10年ぶりにアルバムをリリースしたわけだから、自分の状況に満足している限り、何もリリースしない年があっても俺は構わないね。