Frequency Responseシリーズのコンセプトは以下の通りである。3人のアーティストになんらかの刺激を与え、その反応として音楽を制作してもらう。「歴史」、「アート」、「映像」の3編から成る特集となり、その課題に対してどういった手法で作品作りを行ったか、毎回本人たちに語ってもらう。このコンセプトをどう解釈するかは、各アーティストに委ねた。唯一のルールは、4週間以内に音楽で返答をして欲しい、ということであった。

最終章となる今回のテーマは映像。Dainel Swanによる4分の映像作品をPearson Sound、Avalon EmersonとLucyの3人に渡し、サウンドトラックを制作してもらった。素直に表現してもらうため、彼らに映像作品のコンセプトは事前に伝えていない。Swanにお願いした内容としては、現在自身が興味のあるトピックについて、3分から5分程度の映像を制作してほしい、というシンプルな要望だった。Swanは、Jam City、Rustie、RL Grime、Django Django、Life Sim、George FitzGeraldといったアーティストの個性的なミュージック・ビデオを制作してきたことで知られる映像作家である。これまでロンドンのBarbicanやICAといった場所で展示を行い、Adidas、CottweilerやPrimitiveといったブランドの仕事をこなしてきた。Swanの作品には生々しい現実性と夢のような抽象性の狭間でゆらめくものが多く、今回のお題も例外ではなかった。

「上空を旋回するロボットのような、無感情な視点で、近年の戦争の情景をとらえたものを制作しようと考えた」と、彼は言う。「爆破された場所を撮影した写真を素材として用いて、グレースケールのハイトマップを作成し、写真に写っている地形を立体的に再現したんだ。3次元的に突出させることで写真の端は地盤と化した。爆発によって崩壊した建物の瓦礫が、2Dから3Dに変換したことでさらに歪み変形し、出来上がった仮想プレートだ」

「崩れた家やねじ曲がった自転車、割れたレンガやプラスチックのバケツ、そして人間の痕跡が溶けて流れ、溶岩のように新しい地形を生成した。そういったデータをマシーンが記録し、解析していくというデジタルなプロセスのなかには、“ひと”が入り込む余地はない」

Frequency Responseは、制限なくユニークに、アーティストのクリエイティビティを追究するシリーズである。現代のエレクトロニック・アーティストの複雑なニーズに答えたシステムである、AIAIAIのモジュラー・ヘッドフォンTMA-2 Modularもまた、同じスピリットのもと開発された。

Pearson Sound

ここ何年も映像に合わせて音楽を作ることをしていなかったから、RAにDainel Swanの作品を見て音楽を作って欲しいと言われて、非常に嬉しかったんだ。過去にやった映像関係の仕事は参考にできる映像がない状態でやったから、今回は曲の尺と、明確な雰囲気が事前に定まった状態で作業できて良かった。Danielの作品は素晴らしいと思ったね。とても不気味なものだと思った。これは、現代の戦争におけるドローンやパソコン機器の使用に関した問題提起だと、俺は捉えたんだ。9.11以降、軍用ドローンが撮影した粗い白黒写真をニュースで見る機会が非常に増えた。紅茶の箱だとか、自転車だとか、作品のなかに人間らしさが残されていることが面白いと感じたね。しかし地面は歪んで、まるで遠い惑星かと思うような姿に成り果てている。そしてこの3Dの世界が灰色の空虚の中に浮いているという点も印象深い。

まずはしばらく映像をじっくり見て、曲のなかに入れるべきだと思った要素やテクスチャー、そして曲の構成についてメモをとった。奇異な形に変形していながらも人間の痕跡が残っている彼の作品と合わせるため、自然音だったりオーガニックな音を加工したものを重ねて制作したいと、早い段階で思いついたんだ。背景にはたくさんテクスチャーを配置して、高音域の音も混ぜた。ドローンが“パトロール”している区域に住む人々は、その恐ろしい機械が頭上を旋回する音を蚊の羽音に例えているのを読んだことがある。最初に制作したものは展開が映像とちょっと合っていなくて、もっとジワジワとくるものにしなくてはいけないと感じて悩んだね。しばらく制作から離れてから、彼女の意見も参考にして仕上げたんだ。5.1chのサラウンドでミックスしようとしたんだが、1週間具合が悪くて寝込んじゃって、残念ながら時間が足りなかった。映像に対して他のアーティストがどういう作品を制作したのか聴くのが非常に楽しみだね。全く違うものになったんじゃないかと思うよ。

Avalon Emerson

このプロジェクトをやる前から、Daniel SwanはCGで構築した世界でウルトラ・シュルレアリスムを現代的に表現する作家として知っていたわ。今回の、ドローンが撮影したかのようなコンピューター・レンダリング映像には、私のメランコリックでダークな一面が引き出されたと思う。色彩がグレースケールだし、カットがぶっきらぼうに切り替わるのも相乗効果になって。

私の音楽では感情表現は常にテーマなんだけど、今回の映像作品ではいつも以上にコラージュのようなドリーミーな音像で描くことができたと思う。メロディーだったりテクスチャーだったり、私の音楽の中でのドラマチックさとか、エモーションを表現している部分だけを用いて、楽曲をひとつ作ることができた。

技術面でいうと、私にとってダンスミュージックを作ることは、実用性の低い抽象的な作品を創作するよりも単純明快だわ。ダンスフロアに向けて作る上で意識しなくてはいけない条件って、私は制限だと捉えてなくて、むしろそういったことがあるおかげでやりやすいの。でも今回、ダンスミュージックの枠組みに当てはめる必要なく制作することができて、楽しかったわね。ここ最近AbletonとMaxで制作していた実験的な音のスケッチをもとにして、積み上げていったわ。

Lucy

戦争の力学とか、人類の暴力の原因／結果は最近とても興味を持っていたトピックで、音楽制作においてとてもインスピレーションを受けてるものなんだ。Daniel Swanの作品では、爆弾やミサイルによって粉々になった家や道が見えるが、写真、彫刻、3DCG、ビデオゲームの背景の中間のようなものへと成型されている。この強烈な作品に音楽をつける作業はスイスイ進んだよ。インスピレーションがどんどん湧くものはたいていそうなんだ。

作曲方法は単純だった。Swanのビデオをプロジェクターで連続再生して、それを見ながらリアルタイムで音作りをして加工をした。ドローンの音作りをする過程で、モジュラー・システムと古いKorgのシステムに大いに頼った。ラップトップは使用しなかったんだ。ドローン・ヴォイスの構成に満足行ったら、今度はアナログ・テープレコーダーに何テイクか録音していった。そして最終的に、Swanの作品のメッセージに一番合うと思ったテイクを選んだんだ。

一番表現したかったことは、ポスト・エモーショナルな精神状態だ。思考からあまりに倫理観が欠如しすぎて、もはや共感や同情が不可能になっている領域だ。唯一残っている人間らしさは、熟考するという行為だが、判断はできなくなっている。どこか哀しく、暖かく、人間らしさのあるサウンドトラックだが、人間が起こす暴力の恐ろしい部分を表現することができたと思う。キューブリックが「木星そして無限の宇宙の彼方」（Jupiter And Beyond The Infinite）と言い表した概念だ。度を超えた、連続的な暴力は、道徳規範の崩壊した世界を生み出し、善悪の判断力を失わせ、ただひたすら熟考するだけの状態をもたらす。ディストピアとは、そういうことだと思うんだ。

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