金曜日の夜、Etihad Stadiumでのこと。The Stone Rosesが、完売となった4連続公演の3日目を締めくくっていた。レモンがプリントされたTシャツやバケットハットを身に着けたオーディエンスに向けて「I am the resurrection and I am the life」とIan Brownが声を張り上げている。観客の頭上をプラスチックのドリンクカップが飛び交い、発煙筒の煙が会場に立ち込めていた。6万人規模のこのイベントについてプレス陣は大いに書き立てるに違いない。「マッドチェスターの熱は今なお健在だ」と（英語サイト）。僕はその報道を信じるほかない。なぜなら、僕はその会場にいなかったからだ。

そのときに僕がいたのは同会場から1～2キロほど市街地寄りの場所だった。壁紙がはがれ、巨大なサウンドシステムと粗野なバーが設置された直方体型の地下室で、マンチェスターのもうひとつの一面を体験していたのだ。使い捨てたソックスの臭いがする室内。中途半端に会場を装飾したかのように、ヘリウムの入った風船がひとつだけDJブースの横で浮かんでいた。上の階の入り口では既にバウンサーが来場者の入場を断り始め、断られた人たちが週末のノーザンクォーター（マンチェスターにある地区）へ飲みに繰り出していた人々の往来と入り混じっていた。地下階では地元のベテランDJ、Joey Bがダンスホールを軸にしたウォームアップ・セットの終わりに差し掛かっており、その脇でMurloが自分の出番を待っていた。

イベントをホストしていたMC FoxがDJ交代の瞬間を利用して、200人ものオーディエンスに向けて話し始めた。

「知らない人がいるかもしれないけど、今夜はSwing Tingのレコ発パーティーなんだ。新譜をリリースしたんだ。実は俺のEPなんだけどな。だからといってひいきするわけじゃないけど、かなりすごいことになっていると思う。新譜を買ってくれた人がいたら、声あげて！」

そうするとフロアからポジティブな叫び声があがった。

「その声、絶対に嘘じゃないよな」とMC Foxが肩にかけていた真っ白なタオルで顔の汗を拭いながら言うと、おなじみのベースボール・キャップを被ったMurloが平然とDJを始めた。彼の30分にわたる猛攻セットでは、Kahn & Neekのモンスター級ラガ・トラック"Backchat"の他、UKファンキー、滑らかなUKガラージ、ベースライン、Scratchaのグライム・トラック"The End"のリミックス、そして、自身がMC FoxのEPで共作したカラフルなトラック"Downtown Uptown"などがプレイされた。その間、2回のリワインドが挟まれ、オーディエンスは大いに踊っていた。時間はまだ1時にもなっていない。

以前からマンチェスターのクラブシーンには、延々と語り継がれているHaçiendaによって連想されるような音楽以外にも多様なサウンドが存在している。クラブイベントであり、楽曲の発表も時折行っているSwing Tingは、この”るつぼ”的とも言える多様な音楽スタイルとアーティストがひしめく同市のシーンで結成された。この2年間でSwing Tingは優れたレーベルへと成長し、マンチェスターを代表するエキサイティングな存在となっている。

レーベルの作品は多様で、そのほとんどがデジタル限定で発表されている。ハイライトとして挙げられるのは、Zed Biasによるプロデュースのもと、Trigga、Specialist Moss、Killa Benzといったボーカルをフィーチャーし、イギリスのベースミュージックとダンスホールがぶつかり合ったMadd Again!のアルバム、Famous Enoによる吹き荒れる未来型クラブミュージック"Jaws Riddim"、イギリス系コロンビア人DJのFlorentinoによる無骨なレゲトン・ハイブリッド、そして、レーベル創設メンバーのふたりSamraiとPlattが制作し、キングストンのMC Kemikalによる超絶ボーカルを乗せた甘ったるいガラージ・アンセム"Tease Me"などだ。

この多彩な音楽スタイルを理解するには、Swing Tingが2011年から拠点としているクラブSoup Kitchenを訪れるといい（2011年以降、Swing Tingはほぼマンスリーに近いペースでパーティーを開催している。つまり、レギュラーDJたちが上達するには十分な時間があったということだ）。それが無理ならば、Swing Tingのディスコグラフィーを眺めてもでたらめに発表されてきたようにしか思えないだろう。しかし、しばらくすると、そのどれもが、れっきとした革新性と重低音の有用性とのバランスを実現したサウンドシステム・ミュージックであることに気付くはずだ。こうした音楽の流れは世界的に起こっていることのように見えるが、彼らの音楽は、グローバル化したクラブミュージックの最近のトレンドではなく、何十年にもわたるカリブとイギリスの音楽交流によってインスパイアされたものだ。そして一過性のものではなく、いつ聞いても大いに楽しめる音楽となっている。

Swing Tingのメンバーはこのサウンドのことを"ストリート・レイヴ"と呼んでいる。僕がマンチェスターを訪れる数日前、Skypeで会話をしたBalraj Samraiはこの「ストリート・レイヴ」の説明に苦労していた。「俺たちはMCやボーカルをベースにしたものがすごく好きなのかも。自分がやろうとしていることにそれほど自意識過剰になっていないものっていうか、サウンドに対するそういう無邪気な感じが結構好きなんだ。サウンドを磨き上げ過ぎない感じというか。ある種のラフさみたいなものなんだけど、踊るっていう状況ですごく機能するものなんだ」

彼は付近の学校で勤務を終えて帰ってきたばかりで、シャツとVネックのセーターを着たスマートなその身なりは彼の示唆に富む所作にマッチしていた。

「説明が少しあいまいだよね。俺が何かを気に入ると、Ruben（Platt）もそれを気に入って、Joey（Joey B）も同じく気に入ることがあるんだけど、それが何故なのかを説明するのは難しいな。自分たちの好きなものにレッテルを貼るようなことをしてないからさ。自分たち自身を何かに当てはめてこなかったって意味では、俺たちはラッキーなのかも。そういう分類って10年で変わることもあれば、5年とか、1年とかでも変わるからね」

それから数日後、Soup Kitchen近くのコーヒースポットでRuben Platt、Joey B、Murloと会って話をしたとき、もう少しダイレクトな表現で説明をしてくれたのがPlattだった。

「"ストリート・レイヴ"って言葉はそんなに大げさなものじゃないんだ」と彼は言う。「何か新しいジャンル名を作ってやろうとかそういうことじゃない。異なる場所からやってきてテンポも異なるんだけど共通する姿勢みたいなものがあるっていうか、サウンドシステム向けに作られたそういう感じの音楽をまとめて言い表すときに都合のいい言葉なんだ。なんたって、それぞれのサウンドの間にそれほどつながりがないんだから。例えば、NoreagaやNeptunesの昔のトラックと、最近のダンスホールものとかガラージのトラックとかって、あまりつながりがないだろ」

そこに通底するものがあるとするなら、それはPlattとSamraiのふたりに共通する好みと経歴だろう。彼らは10年ほど前に学生寮で出会った。ミッドランドから哲学を学びにマンチェスターにやってきたSamraiに対し、イギリスのコメディドラマ『Last Of The Summer Wine』で知られるヨークシャーの町ホルムファースで育ったPlattは芸術史を学んでいた。ふたりは00年代初頭のラップ／R&Bを通じて仲を深め、マンチェスターの多様性溢れるシーンにその身を投じるようになった。

Samraiは自身が働いていたレコード店Fat Cityの関連イベントFriends And Familyや、Music Boxで開催されたMr. Scruffのイベント、そして、後のBoomkatとなるレコード店Pelican NeckのConor Thomasが主宰した奇抜なイベントなどで過ごした日々について語ってくれた。ふたりはWest Indian Centreで開催されていたダブステップ・イベントで遊ぶためにリーズまで行くこともあったようだ（ロンドンのようにダブステップがマンチェスターで流行することはなかったが、Platt曰く「素晴らしいサウンドシステムを設置することが重要」なのだとそこで学んだそうだ）。

その後に続いたのがHoya:Hoyaだった。世界的にヒップホップへ傾倒した00年代後半の中心的重要イベントである。「独自のアイデンティティを持ったマルチジャンル・イベント」として、Hoya:Hoyaは後のSwing Tingの原型となるイベントで、Hoya:HoyaのレジデントだったJon KはふたりのDJスタイルに影響を与えた。Plattは次のように語る。「当時のマンチェスターのクラブシーンを感じさせるものを全部まとめたものが欲しいなら、Jon Kのセットを聞けばいい。彼はほぼどんなパーティーでもプレイできた」

そこで分かったことなのだが、SamraiがSkypeのインタビュー中に座っていた場所はJon Kのリビングルームだった。彼は仕事後にイングランド対ウェールズのサッカー試合を一緒に観戦しようとJon Kの自宅に招かれていたのだ。「彼がDJ中のDJだってことを、みんなは分かっていたんじゃないかな」とSamraiは語る。「イベントでDJしていて、一番注目を集めているのはJon Kだなって思うことが多かった。なんていうか、すごく幅広いんだ。"幅広い"って言葉は無造作に口にされることが多いけど、異なるジャンルの曲をかけながらヴァイブスを紡いでいくのは簡単なことじゃない。でも彼がやっていたことはまさにそれなんだ。俺たちがテンプレートにしているもそれなのかも。たくさんの異なる音楽スタイルを取り入れて、そこから何か一貫したものを生み出そうとしているんだ。でも俺たちの場合はそこにストリート的な要素がある」

Platt, Samrai, Joey B, Murlo, Fox

もうひとつの重要イベントとして挙げられるのがHot Milkだ。こちらは、今やSwing Ting第三の男にしてレジデントDJであるJoey Bが運営にかかわっていたイベントである。前述のコーヒースポットでJoeyは次のように説明してくれた。「Hot Milkが始動したとき、街にはちゃんとしたダンスホールのイベントがひとつもなかった。気取った場所では開催されていたけど、そういうところの音ってそんなによくない」。PlattとSamraiよりも彼は数年年上で、顔をすっきりと見せるツバの広いベースボール・キャップをかぶっていた。「ジャマイカの新譜が聞ける唯一の場所はゲットーだった。そういう場所のパーティーは最高だよ。でも繁華街では行われていなかった」

The Heatwaveがロンドンで行っていたことと呼応する形で、Hot Milkは開催された。会場となったのは、Joeyが「通路っぽいところ」と説明するクラブだ。Platt曰く「汗だくになるほど暑かった」というHot Milkでは、優先されるべきものが優先されていたそうだ。パーティーのメンバーはサウンド面に気を払い、地元のサウンドシステムMegatone Sound Foundationを会場のらせん階段から引き上げて導入していたが、かといってシリアスを気取るようなことはしなかった。Swing Tingも同様に「シリアスに考え過ぎるのはよくないけど、基盤となるものはしっかりと準備しておかないといけない」という考えを持っていた。

PlattとSamraiは2006年くらいに味わったHot Milkでのある体験がDJとしての価値観形成を担ったと説明している。シェフィールドからゲスト出演したToddla Tは当時、まだまだ無名だったが、ダンスホール、ラップ、ガラージなど、ふたりの好む音楽をシェフィールドならではのベースラインハウスに混ぜ合わせていくDJスタイルは彼らにとって刺激的だったという。「俺たちの人生の転機となる瞬間だった」とPlattは語る。「異なる音楽スタイルをあんな風につないでいけるなんてすごいと思った。しかも、みんなを動揺させないんだぜ」。かくしてふたりは、とかく悪評を受けることの多いジャンルであるベースラインハウスに価値を見出すようになった。Samraiは次のように回想する。「DJを体験したあと、俺たちはレコード屋のバーゲンコーナーを漁っていたよ。ベースラインハウスは多くの店で過小評価されまくっていた」

Swing Tingが過小評価されている音楽を熱心に聞くようになったのはこのときだけではなかった。レーベルの活動の大部分に影響を与えてきたのは、多彩で楽しいサウンドを好むふたりの性格だ。その傾向はとりわけ、流行と異なっているときに顕著だった。例えば、荒々しいダブステップが人気だったときには、ふたりは歴代のUKガラージを漁りまくり（その数年後にはガラージがリヴァイバルして、ガラージ作品の多くがDiscogsで高騰した）、UKファンキーがハイソなクラブの酷い音でプレイされているに過ぎなかった黎明期から、既にふたりはこのサウンドをプッシュしていた（Hot Milkと彼ら以前のダンスホールとの関係と同様、こうした状況がSwing Tingのイベントを始める理由の決定打となった）。それから数年後、UK産の音楽が再び暗鬱な雰囲気になっていく中、彼らは長期にわたって話し合ってきた計画を実行に移し、レーベルを始動させた。

「全体的にかなりダークな方向に向かっていた」とSamraiが2014年頃の状況について語る。「UKファンキーのカラフルなサウンドなんかは古くなり始めていたし、俺たちはパーティーで未発表の音源をたくさんかけるようになっていた。でも、そういう音楽をリリースするようなレーベルは必ずしも存在したわけじゃないし、ありふれたサウンドばかりだと感じていた」

Swing Tingは中華街のカラオケバーで開催されていたが、その後、Soup Kitchenのマンスリー枠に落ち着くことになった。ストレスを最小限にとどめるため、ふたりは高額の出演料が発生するゲストのブッキングを止め、代わりに友人や関係者に出演をお願いするようになった。その中から気に入った人を何度もブッキングし続け、Joey BとMurloがオフィシャルのレジデントとなるなど、彼らは少数のアーティストたちと深い関係を築き上げていった。

Soup Kitchenの薄汚い地下室で行われる彼らのパーティーではファミリー的な雰囲気を感じ取ることができる。前述のイベントでは、タイムテーブルは大まかに決められており、出演するDJたちがブースの中でFoxや他のDJたちと談笑を繰り広げていた。Murloのセットが盛り上がりを迎えたころ、プレイ中のトラックを調べようとPlattが彼の背後から身を乗り出した。次に出番を控えていたのはRinse FM所属のBracklesだ。彼がDJを始める前に、Foxが再びマイクを握った。

「Swing Ting！今日ここに初めて来たって人は、知っておいてくれ。ここでプレイしているのは、ファミリーの一員だと思っている大好きなやつらばかりだってことをな。さあ、今からDJブースに立つのはBracklesって名前で知られているDJだ。みんな、声を聞かせてくれ！」

USBが不具合を起こしたため、Bracklesは取り急ぎGoogle Playで手に入れたトラックでDJを行うことになった。しかし、そのことに気付く人はいないだろう。彼のバウンシーなセットは往年のUKファンキーと豪勢なアフロビートの中間を丁寧に行き交うものだったからだ。以前、Bracklesは冗談でSwing Tingの開催中に、「仕事しないで一服しに行っている」とFoxをからかったことがあるが（英語サイト）、この日のFoxはBracklesのセット中にまさにそれをやっていた。Foxがステージに戻ると、音が急に止まった。するとFoxは次のようにアナウンスした。「Bracklesが機材を壊したかも。南部のやつらは機械の使い方を知らないんだよな」

Bracklesがプレイしたうち2曲はSwing Ting初のリリースに収録されていたものだった。実はこの作品はSwing Tingからリリースされるのではなく、別のレーベルからリリースされることになっていた。その予定が頓挫したときに、ちょうどディストリビューターと話をしていたのがPlattとSamraiだったのだ。"Skank"のサインを取り交わすのに、何も迷う必要などなかった。多彩さとサウンドシステムの重低音を兼ね備えた、まさにSwing Tingにうってつけのジャンル横断型ハイブリッド・サウンドだったからだ。同時期にSamraiはNotting Hill CarnivalでFamous Enoと出会い、Enoのハードドライブに1年間眠り続けていた同トラックのリミックスを耳にすることになる。「全部のことが1～2か月くらいで決まった。迷うことなんて全然なかった」とSamraiは回想する。

その後、レーベルからは一気にリリースが続いた。Samrai & Plattの"One Step"では、グライムが弾力性と空間を感じさせるアレンジに落とし込まれ、一方でTrigganomによるボーカルを通じてダンスホールとの接点が維持された。さらに、マンチェスターのシーンで彼らと面識のあるZed BiasはSamraiに連絡を取り、彼のプロジェクトMadd Again!のアルバムを打診した（SamraiはZed Biasについて「ガラージやダブステップに貢献したし、今でも現役で活動している。異なる点と点を結びつける、もうひとりの人物だよ」と称している）。そして、その後ほどなくして、Famous Enoの扇動的な"Jaws Riddim"（英語サイト）やFlorentinoのデビューEPが発表された。

「勢いが出てきたから、その調子で続けただけなんだ」とPlattが語る。「Madd Again!のアルバムを出した後くらいに、それまでにリリースしたものを書き出したみたんだ。そうしたら、8か月間くらいで全部をリリースしていた。それを見て、『そうか、これだけリリースしていたんだ』って思ったよ。快感だったね」

この時期のリリースはSwing Tingにさらなる深みを与えることにもつながった。「俺たちはみんなパーティーをするのが大好きだけど、パーティーってその瞬間だけのものだと思うんだ。レーベルが始動してからは何かを築いている感覚がある。自分たちのやっていることの素晴らしさを外部の人たちに向けて示しているような感じかな。マンチェスターから遠く離れた場所で、そのことに気付いてくれる人たちがいるんだ」

Swing Tingを知ったばかりの人には、レーベルのオールスターがフィーチャーされた8枚目のリリースが最初の1枚としてうってつけだ。同作はレーベルのMCであるFoxのソロデビューとなるEPでもある。彼はマンチェスターで根深く活動を行っており、Joey Bが同市に移って来る何年も前から、Megatone Sound Foundationの一員としてHot Milkにサウンドシステムを提供していた。PlattとSamraiは2010年頃のHot Milkで初めてFoxのMCを耳にし、その後まもなくして彼をSwing Tingに引き入れた。Plattは次のように語る。「あいつはすごく知識豊富だ。サウンドシステムの音楽に囲まれて大きくなったし、何度もサウンドシステムに携わっている。だから、サウンドシステムでプレイされるトラックを理解しているんだ」。Foxは市内のいたるところで活動しており、MC／プロデューサー集団のLevelzやドラム&ベース・イベントのSoul:utionなどにも参加している。「でも、あいつの力を引き出しているのは間違いなくSwing Tingだ。あいつもすごく楽しんでいるだろ」とはPlattの言葉だ。

「Musik」で、Foxは変わったビートの敷かれたトラック上でシングジェーを行うなど、自身の多才ぶりを披露している。そして彼はそれを難なく行っているように思わせる。まるでSoup Kitchenのブース内でMCを行っているかのようにだ。同EPにはアブストラクトなトラックもいくつか収録されている。Florentinoは"Vacio"で宇宙を思わせるダンスホールに挑み、Famous Enoは"Big Man Ting"でブリップ音に似た素材でリズムを組んでいる。一方、Samraiはコラボレーションによるトラック2曲でいつものサウンドを聞かせてくれる。Bracklesとの"New Swing"は"Skank"と呼応するものとなっており、Downtown Uptown"はMurloのメロディセンスが弾けるトラックとなっている。さらに、EquiknoxxのメンバーPuppy Discoによるコミカルなデジタル・レゲエ"I Swear"も収録されている（Swing Tingはジャマイカ人によるプロジェクトEquiknoxxと近い関係にあり、彼らのトラック"Bubble"はレーベルの9枚目に収録されている）。

ここに挙げたトラックのいくつかは先のレコ発イベントでプレイされている。各トラックがプレイされたとき、オーディエンスは歌詞を知っているような様子だったため、Foxは自分のボーカルに合わせて意気揚々と歌っていた。その日の午前2時を回ったころ、The Stone Rosesを見に集まった6万人のファンたちのほとんどは既に寝静まっていただろう。しかし、Soup Kitchenの地下には100人強の熱心なダンサーたちが残っていた。PlattとSamraiが数種類の異なる音楽スタイルを通じてBPM100強からハウスのテンポへと加速するという刺激的なセットを終えたばかりの時間だった。午前2時半からMurloが再びDJブースに立ち、終了時間の午前4時に向けてFoxが「Swing Tingを最後の瞬間まで搾り取るぞ」とオーディエンスに呼び掛けた。

そしてイベントはジャングルとジャンプアップによる荒唐無稽の15分間へと突入し、叩き付けるブレイクビーツを乗せた印象的なバラードAnita Baker "Sweet Love"のM Beat & Nazlynによるリミックスでクライマックスを迎えた。そこからトラックを数曲かける間に、MurloはAshantiの"Only U"へとつないでいき、それからほどなくして他のDJたちが自由にバック・トゥ・バックを行い始めた（そこにはBracklesの姿が無かった。おそらく、Google Playの曲を使い尽くしたのだろう）。

そして終盤になると、彼らは00年代のヒップホップ／R&Bへと移行していった。それは10年前にPlattとSamraiが仲を深めるきっかけになった音楽だった。Outkastの"So Fresh So Clean"、50 Centの"21 Questions"、Wayne Wonderの"No Letting Go"など、ヒット曲が次から次へとプレイされ、終了時間が近づくにつれて90年代のトラックまでもが掘り返されると、Foxがミキサー上に体を乗り出してトラックをカッティングし、その間に自分のMCを挟み込んだ。予想外と言っていいのだと思うが、その夜のクライマックスが訪れたのはMariah Careyの"Fantasy"がプレイされたときだった。誰がプレイしたのかは分からない。この日のDJなら誰もがそうしたニクい展開を作ることが可能だった。フロアに残っていたオーディエンスもこれには完敗だったようだ。同じくFoxも「たまんねーぜ！」と叫び、自らのタオルに手を伸ばしていた。

Label of the month mix

奇妙なダンスホールからカラフルなUK産ハイブリッド・サウンドまで、Swing TingのサウンドジャーニーへPlattとSamraiのふたりが手際よくご案内。レイブホーンを存分に吹きながら各サウンドの異なる点と点を結びつける。

Tracklist /
Fox - Vacio ft. Trigganom
Florentino - Split in 2
Equiknoxx Music - Bubble ft. Devin Di Dakta
Madd Again! - Jump Inna Mi Whip
Brackles - Carbon
Florentino - Llamada
Famous Eno - Gangsters ft. Alexx A-Game, Serocee & Fox
Fox - Downtown Uptown
Madd Again! - Duggu
Brackles - Skank ft. Fox
Brackles - Skank (Famous Eno Remix) ft. Fox & Trigganom
Samrai & Platt - One Step ft. Trigganom
Famous Eno - Jaws
Madd Again! - Breadline (Tings Are So Hard) ft. DJ Q
Samrai & Platt - Tease Me ft. Kemikal